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遺伝子検査で何がわかるの?

遺伝子検査とは、動物が持つ遺伝情報を解析するための検査のことです。犬の特定の遺伝子を検査することで、遺伝子の突然変異によって発症する先天的な病気=「遺伝性疾患」のリスクの有無を判定することができます。
リスクがある犬が必ず発症するわけではありませんが、遺伝性疾患のリスクをあらかじめ知っておくことで、発症した場合に早期発見につながり、治療をしたり犬のQOLを上げることができる可能性が高まります。
子どもの遺伝性疾患のリスクは、両親の遺伝子検査の結果から判断することができます。ブリーダーによる両親犬の遺伝子検査結果を、子犬を選ぶ際のひとつの指標にすると良いでしょう。
また近年ブリーダーは、交配する前に親犬の遺伝性疾患の有無を確認して、次世代に遺伝性疾患を引き起こす可能性のある遺伝子を残さないようにすることがモラルであるとされています。病気で苦しむ犬を増やさないために、親犬の遺伝子検査は必要なことなのです。
記事の監修:獣医師・ライター 平松育子
山口大学農学部獣医学科卒業。山口県内の複数の動物病院勤務を経て、ふくふく動物病院開業。皮ふ科と内科、予防医療に注力する。
日本獣医がん学会、日本獣医皮膚科学会所属。

2023年にふくふく動物病院を閉業し「アイビー・ペットライティング」を立ち上げ。
ライターというかたちで、生涯飼い主さまやペットたちとつながっていきたいと思います。



(アイビー・ペットライティング 代表)

遺伝子検査って何?

遺伝子検査とは、動物が持つ遺伝子(遺伝情報)を解析するための検査です。

近年、犬の持つ遺伝性疾患を遺伝子を検査することで割り出せるようになりました。遺伝子の変異(突然変異)によって発症する先天的な病気(=遺伝性疾患)のリスクの有無を判定することができます。

遺伝子に遺伝性疾患の情報があっても、発症しないまま生涯を終えることができるかもしれません。けれどもそういった犬が子孫を残すことで子犬に症状が出る場合もあることから、子どもを作る前に親犬の遺伝子検査をすることが推奨されるようになってきました。

また遺伝子検査は、あくまでも遺伝性疾患になる可能性を調べるための検査なので、治療や予防をすることはできません。

犬の遺伝子検査は何のためにするの?

遺伝子検査をすることで、先天的にその犬が持っている遺伝性疾患をあらかじめ知ることができます。遺伝性疾患を引き起こす遺伝子の有無を早期に知ることで、定期健診を受けて現状の確認をしたり、生活上の注意点を知ることができます。

また仮に病気遺伝性疾患が発症したとしても早期発見につながり、治療したり犬のQOL(クオリティー・オブ・ライフ)を上げることができる可能性が高まります。

現在では交配する前に親犬の遺伝性疾患の有無を確認し、キャリアやアフェクテッドであると判断された場合は交配しないのがモラルです。(キャリアやアフェクテッドについては次の項目で解説します)

これは、次世代に遺伝性疾患を引き起こす可能性のある遺伝子を残さないようにし、病気で苦しむ犬を増やさないために必要なことです。そのため、ブリーダーは親犬の遺伝子検査を行い、その結果に基づき交配を行っています。

遺伝子検査の結果で分かること

遺伝子検査の結果で分かるのは、遺伝子に変異が起きて引き起こされる遺伝性疾患を発症するリスクの有無です。

遺伝子検査の結果は、『クリア』『キャリア』『アフェクテッド』の3つに分かれ、このうち遺伝病のリスクを抱えているのは『キャリア』か『アフェクテッド』です。

クリア

遺伝病になる心配がない状態です。遺伝病の原因となる遺伝子を両親のどちらからも受け継いでおらず、原因遺伝子を持っていないという結果を表しています。

キャリア

遺伝病の原因となる遺伝子を両親のどちらか片方から受け継いでいる状態です。キャリアの状態であれば発症しない遺伝性疾患の方が多いですが、絶対とは言えない場合もあります。

アフェクテッド

遺伝病を発症する可能性が高い状態です。父親と母親の両方から遺伝病の原因となる遺伝子を受け継いでいます。

検査結果は1対の染色体の組み合わせパターンで決まる

染色体とは、遺伝情報であるDNAが折り畳まれたもの。2本1組で、父犬と母犬からそれぞれ1本ずつ受け継ぎます。染色体の数は生物によって異なり、私たち人間の染色体は23対46本ですが、犬の染色体は39対78本で構成されています。

遺伝子検査の結果は、この2本の組み合わせによって【クリア】【キャリア】【アフェクテッド】の3つのパターンに分かれるのです。

<犬の遺伝子検査結果パターン>

  染色体1組2本
  染色体1 染色体2
クリア 〇(変異なし) 〇(変異なし)
キャリア 〇(変異なし) ✕(変異あり)
アフェクテッド ✕(変異あり) ✕(変異あり)

親犬の遺伝子検査だけやっているのはどうして?

1対の染色体2本のうち、1本は父親から、もう1本は母親から受け継ぎます。
そしてさらにそのどちらかを、子どもが受け継ぐことになります。

そのため父親・母親ともに「キャリア(〇✕)」だった場合、組み合わせによっては子どもの染色体は「アフェクテッド(✕✕)」になる可能性があるのです。

また両親の片方が「アフェクテッド(✕✕)」の場合は、子どもは「キャリア(〇✕)」か「アフェクテッド(✕✕)」のどちらかになることが確定します。

このように両親の遺伝子検査を行えば、子どもにはどのような遺伝情報が受け継がれる可能性があるのかあらかじめ知ることができるので、子どもの遺伝性疾患に対して早期発見や重症化の予防につながります。​

親犬の検査結果から見る子犬の遺伝病確率

両親ともクリア:子供は全員クリア

両親ともクリア

両親のうち片方がキャリア:子供は半分がキャリア

両親のうち片方がキャリア

両親のうち片方がアフェクテッド:子供は全員がキャリア

両親のうち片方がアフェクテッド

両親ともキャリア:子供は1/4がクリア、半分がキャリア、1/4がアフェクテッド

両親ともキャリア

両親がキャリアとアフェクテッド:子供は半分がキャリア、半分がアフェクテッド

両親がキャリアとアフェクテッド

両親ともアフェクテッド:子供も全員アフェクテッド

両親ともアフェクテッド

「キャリア」や「アフェクテッド」の場合は飼わないほうがいいの?

遺伝子検査による3つの結果のうち『キャリア』『アフェクテッド』は、先天的に病気のリスクを抱えている状態です。ではこの2つのどちらかである子犬は、飼わない方が良いのでしょうか?

『キャリア』の場合は、遺伝病を発症することはありません。つまりキャリアの子犬を飼うことには何の問題もないということです。ただし上の表からわかるように、キャリアの両親からは1/4の確率で『アフェクテッド』の子どもが生まれてくるため、子孫を残すことは避けるのが良いでしょう。

『アフェクテッド』の子犬の場合は、遺伝性疾患を発症する可能性が高まります。けれどもアフェクテッドの全ての犬が発症するわけではなく、発症しても日常生活に影響のない疾患の場合もあります。『アフェクテッド』とわかっている子犬の場合には、具体的に何の疾患でアフェクテッドなのかを知り検討すると良いでしょう。

両親ともにキャリアもしくはアフェクテッドで、子犬にもそのリスクが遺伝する可能性がある場合でも同様です。遺伝子ごとに検査結果が出るので、まずは詳しい結果を知ることが大切です。

ブリーディングについてのJKCの見解

遺伝子検査によりこうした病気のリスクをあらかじめ把握しておくことは、新たに遺伝子疾患のリスクを抱えた犬を増やさないという意味では、非常に有効な手段といえるでしょう。

ブリーダーは純血種のスタンダードを維持しつつ、何世代もかけて犬種として理想的な犬を作り上げていこうとしています。「理想的な犬」にはもちろん、遺伝性疾患で『アフェクテッド』ではないという条件も入ってきます。

そのため何世代もかけてアフェクテッドを出さないような繁殖をしていくことで、徐々に『キャリア』の個体も減っていき、最終的にはほとんどが『クリア』である状態を目指すのが良いとされています。

検査項目一覧

ACHM 色覚異常

明るい場所での視力が低下したり、完全に見えなくなることもある眼疾患です。網膜の明るさや色・形を認識する細胞のうち、明るい場所で反応する「錐体」の光受容体が機能不全に陥るためで、明るい光を苦痛に感じる場合もあります。10週齢頃に症状があらわれることが多いです。

サモエドやハスキーなどに見られる遺伝性疾患です。

CEA コリー眼異常(コリー・アイ)(CH)

遺伝性の眼疾患です。眼球壁を構成する網膜や脈絡膜、強膜に異常が現れ、軽度であれば症状はほとんど現れませんが、重度になると失明してしまう恐れがあります。

『コリー』と名はついているものの、ウィペットやシェットランド・シープドッグ、ボーダー・コリー、北海道犬などラフ・コリー以外の犬種も発症します。

CH 先天性甲状腺低下症

甲状腺ホルモンの分泌が少なくなり、成長が遅くなる疾患です。正常な子犬と比べ全体的に小柄で活動性が低く、適切な治療を受けられなければ死亡してしまう場合も。甲状腺ホルモンの産生に必要なタンパク質が先天的に欠損していることが原因で引き起こされます。

フレンチ・ブルドッグやテンターフィールド・テリアに見られます。

CL 神経セロイドリポフスチン症

運動障害や知的障害、視力障害などの神経症状が起こり、症状が進行すると死に至る場合もある疾患です。1歳半から2歳頃までに発症し、2歳半ごろまでに亡くなることが多いといわれており、治療法はありません。

通常であれば代謝により分解・除去されるはずのリポフスチンという褐色色素が、神経細胞に蓄積することで発症します。

犬種によって発症する原因となる遺伝子が異なり、ゴールデンレトリーバーでは『CLN5』、オーストラリアン・シェパードでは『CLN6』や『CLN8』を、ダックスフンドでは『PPT1/NCL2』を検査する必要があります。

CNM 中心核ミオパチー

筋力や筋緊張の低下が起こる遺伝性疾患です。骨格筋の収縮に必要な筋組織に生まれつき異常があるためで、筋力低下だけでなく呼吸や心臓の症状や、関節や骨の拘縮などの合併症を起こすこともあります。

オーストラリアン・ラブラドゥードルで見られることのある遺伝性疾患です。 ​

CYS シスチン尿症

尿路が炎症を起こしたり、尿管や尿道がつまって尿が排出できなくなる疾患です。重症化すると、尿毒症や膀胱破裂など重篤な病気に発展することも。腎臓、尿管、膀胱、尿道といった尿路に、シスチン結石ができてしまうためにおこります。

ミニチュア・ピンシャーやラブラドール・レトリーバーに見られる遺伝性疾患です。

DM 変性性脊髄症

脊髄の変異により麻痺症状があらわれる致死性の疾患です。痛みはなく、後ろ足から始まり、ゆっくりと数年かけて前足や呼吸器へと進行します。

ジャーマン・シェパード、ボクサー、バーニーズ・マウンテン・ドッグ、ウェルシュ・コーギー・ペンブロークでよく見られる疾患ですが、ほとんどの犬種で起こる可能性があります。

またバーニーズでは特有の遺伝子にこの疾患の変異があらわれることがわかっており、別途この遺伝子の検査も必要となります。

EIC 運動誘発性虚脱

激しい運動の数分後によろけたり座り込んでしまう疾患です。筋肉が虚脱してしまうために起こり、通常は30分程度で回復します。

特徴は虚脱しているにもかかわらず、意識障害がないことです。まれに発症により死亡してしまうこともあるため注意が必要です。日常的な散歩程度の軽い運動であれば問題はありません。

ラブラドールレトリーバーやコーギー、コッカースパニエルに見られる疾患です。

F7 ​第7因子欠乏症

出血した場合に血が固まらず止まりにくくなる血友病の一種です。第7因子と呼ばれる血液凝固に関わるタンパク質が先天的にないことが原因でおこります。

血友病は人間も発症しますが、犬の場合明らかな症状が出にくく、動物病院での検査で偶然発覚するような場合が多いです。

ビーグル、ラブラドールレトリバー、パピヨン、ミニチュアシュナウザーなどに見られる疾患です。

F9 第9因子欠乏症

出血した場合に血が固まらず止まりにくくなる血友病の一種です。第9因子と呼ばれる血液凝固に関わるタンパク質が先天的にないことが原因でおこります。

ブル・テリアに見られることがあります。

FN 家族性腎症(常染色体遺伝性劣性腎症)

命に関わる遺伝性の腎臓病です。血液中の老廃物や塩分を「ろ過」し尿として身体の外に排出するという腎臓の働きに異常が起こり、タンパク質が漏出してしまうことで起こります。

1歳未満で蛋白尿の排出が起こり、2歳頃までに症状が進行して腎不全となり最終的には死に至ります。
アメリカンコッカースパニエルやイングリッシュコッカースパニエルで起こる可能性があります。

GM1 ガングリオシドーシス

進行性の神経症状を起こす先天性疾患です。発症すると運動障害、視覚障害、認知障害を起こし、1~2歳頃に死亡します。

βガラクトシダーゼ活性の遺伝的な異常が原因で発症します。

柴犬、秋田犬、甲斐犬といった日本犬のほか、シベリアンハスキーでも見られます。

HNPK 遺伝性鼻不全角化症(鼻鏡角化亢進症)

生後6~12ヵ月齢前後から、鼻の表面や縁の部分が角化してしまう病気です。鼻の表面の皮がはがれかけてカサカサしたりかさぶたになります。時間経過とともに鼻の色素が脱落し、黒から薄い肌色に変化します。

命に関わる病気ではありませんが、硬くなった箇所にヒビが入ると、その傷口から細菌感染をひき起こす危険があります。

ラブラドール・レトリーバーで見られることがあります。

HUU 高尿酸尿症

尿中に結石症の原因となる尿酸が過剰に排泄されることで、腎結石、尿管結石、膀胱結石、尿道結石の発症リスクが高くなる病気です。重篤化すると尿路閉塞を起こしてしまい命に関わる可能性もあり、その場は手術により結石を除去する必要があります。

この病気は人間でもみられますが、犬は人と異なり痛風にはなりません。

ダルメシアン、ポメラニアンやマルチーズのほか多くの犬種で遺伝されうる疾患です。

​MC 先天性筋強直症

転倒や起立困難などの運動障害があらわれる疾患です。一度筋肉を収縮させるとゆるまなくなってしまうことが原因です。

適度な運動は症状改善につながるようですが、過度な運動は避け、興奮させないようにしましょう。

子犬のうちに症状が出ますが、1歳までのあいだに安定することが多く、重度の場合以外は命に関わる病気ではありません。

ボーダーコリーやミニチュアシュナウザー、ラブラドールレトリーバーでみられる遺伝性疾患です。

MDR-1 遺伝子変異(イベルメクチン感受性)

この遺伝子が変異していることで起こる代表的な問題の一つが、寄生虫の治療薬である「イベルメクチン」を投与されると、運動失調などの神経症状が出てしまうことです。

体内で毒性のある物質が入ってこないように働く「P糖タンパク」が、MDR1遺伝子の変異により作られなくなってしまうため、毒が細胞の中に入ってしまうことで起こります。

高用量のイベルメクチンや抗がん剤を使用するときに注意が必要ですが、フィラリア薬に入っている程度の低用量では問題ありません。

シェルティやボーダーコリー、ウィペットなどでみられます。 ​

MH 悪性高熱症

イソフルレンやプロポフォールといったの全身麻酔薬を使用したときにごく稀に発生する、いわゆる麻酔合併症です。筋肉が異常に収縮して体が硬直するとともに、恐ろしい早さで体温が上がり高熱となります。

腎臓に障害をきたすほか、血中が酸性になったりカリウムの値が高くなったりすることで、命に危険が及ぶ場合もあります。

ラブラドールレトリーバーやイングリッシュスプリンガースパニエルなどに見られる遺伝性疾患です。

OI 骨形成不全症

先天的に骨がもろく弱いため、骨折や骨の変形がしやすくなってしまう病気です。原因は、結合組織の主要な成分である1型コラーゲンの遺伝子変異『COL11A2』『COL9A2』にあると考えられています。

ゴールデンレトリーバーやラブラドールレトリーバーのほか、ダックスフンド、ビーグル、キャバリア、サモエドなどに見られる遺伝性疾患です。

PHC ​遺伝性白内障

眼のレンズの役割を担う水晶体が白濁することで、視力が低下する病気です。一般的には老化により発症するのですが、遺伝性の場合には生まれた時点で発症していることもあります。

6歳までに発症する若齢性白内障では遺伝性の原因が最も多いといわれています。進行性網膜萎縮(PRA)のような別の遺伝性眼疾患に伴い発症する場合もあります。

フレンチブルドッグやボストンテリアでみられることが多い疾患です。

PK ​ピルビン酸キナーゼ欠損症

ピルビン酸キナーゼという酵素が不足することで、赤血球が破壊され貧血を引き起こす病気です。

赤血球の急速な入れ替えに鉄分の処理が間に合わず、肝臓に鉄分が沈着してしまうことで肝硬変が起こる場合もあります。

ウエストハイランド・ホワイトテリアやパグ、ラブラドールレトリーバーで見られる遺伝性疾患です。

PLL 原発性水晶体脱臼

眼球のレンズにあたる水晶体が、正常な位置からずれてしまう先天的な目の疾患です。水晶体を固定する靭帯が先天的に弱いため生じる病気で、脱臼により眼内に炎症が起きることで腫れや痛みを伴います。

緑内障などの合併症状が起こりやすく、重症化すると短期間で失明することも。両眼共に起こる場合が多いです。

ヨークシャーテリア、ボーダーコリー、ウエスティ他多くの犬種にみられます。

PRA 進行性網膜委縮症

網膜の異常から視覚障害が起こり、時間の経過とともに視力が低下し最終的には失明してしまう先天的な目の病気です。発症する時期や進行具合には個体差がありますが、3~5歳ごろから症状が出始めることが多く、早いと1歳未満の子犬の時期に発症します。

この疾患の原因遺伝子には『PRC』『RPGRIP1』『CORD1』『prcd』『rcd1』『rcd3』『SLC4A3』『TTC8』などがあります。

プードル、ヨークシャー・テリア、パピヨン、柴犬やジャックラッセルテリア、コーギー、ゴールデンレトリーバーなどにみられる遺伝的疾患です。

SAN 感覚失調神経障害

ゴールデンレトリーバーで遺伝される神経系の疾患です。

子犬の頃から徐々に症状が出はじめ、歩いたり正常な姿勢を維持することが難しくなっていきます。進行性の疾患のため3歳頃までに悪化し安楽死が施される場合もあります。

TNS 遺伝性好中球減少症(捕捉好中球症候群)

白血球の一種である好中球が著しく減少する遺伝性疾患です。骨髄で作られた好中球が血液中に放出されないため、病原体から体を守ることができず、重篤な感染症に陥ってしまいます。

発育不全、歩行困難、体を痛がるなどの症状を伴い、最終的に死に至る遺伝性疾患です。生後4ヶ月頃までに死亡、または安楽死が行われるケースが多いようです。

vWD フォンヴィレブランド病

血液に含まれるフォンヴィレブランド因子が作られる量が少なかったり、壊れて正常に働かなかったりすることで血が止まらなくなる病気です。原因によって1型から3型の3つのタイプに分類されます。

1型はフォンヴィレブランド因子が減少する、犬では最も多く確認されているタイプで、最も重症になる3型はフォンヴィレブランド因子がそもそもないタイプです。

イタリアングレーハウンドやチワワ、コーギーほか多くの犬種にみられる遺伝性疾患です。

グリコーゲン蓄積症

血糖値が低下し痙攣などの神経症状が表れる疾患で、適切な治療が受けられないと多くは離乳期までに亡くなります。代謝に必要な物質であるグリコーゲンを分解する酵素がないためにグリコーゲンを利用できない状態になります。そのために全身にグリコーゲンが蓄積し、うまく働かなくなることで低血糖が起こります。

マルチーズなどでみられる遺伝的疾患です。

コバラミン吸着障害(Cubilin 欠乏症)

コバラミン(ビタミンB12)を消化管から吸収できなくなり、発育不良になってしまう病気です。生後3〜6ヶ月に発熱や倦怠、食欲不振、嗜眠、嘔吐、下痢、脱毛、てんかん発作といった多様な症状が表れ、成長期であるにも関わらず体重が減少していきます。また血液中の白血球や血小板が減少し、貧血の症状も表れます。

ビーグルやボーダーコリーにみられる疾患です。

フーコドーシス(FUCA1)

1歳半から4歳頃の間に、運動失調や嚥下障害、視覚異常などの症状があらわれる疾患です。α-フコシダーゼという酵素がないことで、オリゴ糖などが体内に蓄積することが原因です。年を取るにつれて神経学的症状が悪化する場合があります。

イングリッシュ・スプリンガースパニエルで遺伝される疾患です。

プレカリクレイン欠乏症

血液の凝固因子の一つであるプロカリクレインが欠乏する遺伝的疾患で、通常は無症状です。血液検査ではAPTT(トロンボプラスチン時間)が延長します。まれに他の凝固因子も欠乏している場合には出血などの症状が出る場合があります。

シーズーやシェットランドシープドッグ、ペキニーズに見られます。

ホスホフルクトキナーゼ欠損症

生後5ヶ月頃から溶結性貧血と血色素尿の症状があらわれる疾患です。「ホスホフルクトキナーゼ」という酵素がないことが原因で、激しい運動や高温の環境により、症状が激化します。

死に至るような疾患ではありませんが、生涯に渡り運動や温度の管理が必要です。

ムコ多糖症ⅢA

3歳頃に後ろ足の麻痺が始まり、1~2年かけて症状が進行する疾患です。最終的に運動失調や痙攣発作などが見られます。「グリコサミノグリカン」というムコ多糖の分解に必要な酵素がないことで、脳、肝臓、腎臓などの全身臓器にグリコサミノグリカンが蓄積することが原因です。

ダックスフンドにみられる遺伝的疾患です。

魚鱗癬

皮膚のターンオーバーに異常が起きる疾患です。生後3週〜1歳頃から全身にふけが増加し、皮膚が厚くなったり、色素沈着が見られるようになりますが死に至るような疾患ではありません。

元々は人間の疾患として知られており、大量のフケが魚の鱗のように見えることからこの名前が付けられました。

ゴールデンレトリーバーやウエスティでみられる遺伝的疾患です。

原発性緑内障

緑内障のうち遺伝的におこるもののことです。眼球の中の液体が増えすぎてしまうことで眼圧が高くなり、眼球が内側から押されるため痛みを伴います。治療をしなければ失明に至ることもあります。

シーズーや柴犬、ビーグルなどによくみられます。

骨異形成症

先天的に体内でのコラーゲンの生成がうまくできないため、全身の骨や歯が非常に弱く、軽い衝撃を受けただけで骨折してしまう重篤な疾患です。生後3~4週頃から全身に痛みがあらわれはじめます。

ダックスフンドに多くみられます。

小脳低形成症

小脳が萎縮した状態で生まれる先天性の致死的な疾患です。生後4週よりバランス感覚の消失、測定過大などの小脳性の神経症状を発症します。

他の遺伝性神経疾患と比べると病状の進行は比較的ゆるやかで、4歳6ヶ月まで生存した症例も確認されています。

神経軸索ジストロフィー

生後3~4ヶ月頃から発症する神経系の致死的な疾患です。頭部のふるえやふらつきなどの運動失調といった症状があらわれ、視力や聴力を失う場合もあります。罹患犬の多くは1歳になる前に死亡します。

髄鞘低形成

生後2週間頃から神経性の症状としてふるえ(振戦)が出ます。重度の振戦では生後すぐに死んでしまうこともあります。逆に3~4ヶ月から少しずつ改善して軽微な症状になる個体もいます。

好発犬種はワイマラナーです。

脊髄癒合不全

生後4~6週頃の子犬が歩き始める時期に発覚することが多い遺伝的疾患です。腰付近の脊髄の形成に異常があるのが原因で、うさぎがはねるような歩き方をします。非進行性の疾患で、診断されたとしてもほとんどの犬は普通の生活を送ることができます。

先天性夜盲症

網膜が変性萎縮することで、視力が低下し最終的には失明する眼疾患です。初期症状として、夜盲という暗い所で見えづらくなる症状が表れ、進行すると明るい場所でも見えなくなっていきます。

若齢時に眼振がみられるケースもありますが、成犬になると症状がなくなります。多くの場合、慣れたはずの室内で物につまずく、ぶつかるなど様子の変化で病気に気づくことになります。

白血球粘着不全症

免疫が正常に働かないことで歯肉炎や関節の炎症が起こり、それによる全身性の痛み、難治性の湿疹などの症状が表れる疾患です。白血球の一種である好中球の働きを助けるオプソニンという物質がないことが原因です。

生後数週間で発症し6ヶ月ほどの早期に死に至ります。

発作性転倒

ストレスや不安、運動により手足が硬直する発作が起きることで転倒してしまう疾患で、生後3〜7ヶ月頃から発症します。虚脱やウサギのように後足で跳ねるような歩き方、背中を丸める姿勢などが見られることもあります。抗てんかん薬で発作をコントロールすることもでき、寛解が期待できます。

好発犬種はキャバリアです。

消化管ポリポーシス

2020年に発見された、ジャックラッセルテリアだけで発症する遺伝病です。
主に胃や大腸に腫瘍性ポリープができ、嘔吐や下痢などの症状が現れます。平均発症年齢は6歳ですが、1歳で発症するケースもあります。
致死性でない場合がほとんどですが、現在治療法は確立されておらず、外科的切除で対応することが多い疾患です。